杜氏とはどんな仕事?日本酒造り組織や役割について詳しく紹介

事業を経営するにあたって欠かせない存在である重役。会社における最高経営責任者はCEOと呼ばれますが、日本酒造りにおける最高指揮官は「杜氏(とうじ)」と言われます。聞いたことはありますか?

日本酒の発展を支えてきた杜氏ですが、あまりその全容が知られていないというのが現状です。そこで今回は、杜氏が酒蔵で担う役割や歴史、どんな杜氏がいるのかまで徹底的に深掘りしていきます!

杜氏とは?

杜氏とはお酒造りにおける最高責任者のことを指し、たいていひとつの酒蔵で働く杜氏は一人と決められています。

近年は技術革新も手伝い、杜氏の感覚にゆだねられてきた工程がデータ化されることで、杜氏がいなくてもお酒を醸せる酒蔵が出てきました。
お酒造りが多様化を見せる昨今ですが、昔ながらの伝統技術を継承する多くの酒蔵では現在も杜氏を筆頭にお酒を醸しています。

紛らわしいワードに「蔵元」が挙げられますが、蔵元とは元来「酒蔵のオーナー」を指す言葉です。
蔵元と杜氏を兼任するスタイルが多く見られるようになったことから、「杜氏=蔵元」と認識されることがありますが、蔵元が杜氏を兼ねる場合は「蔵元杜氏」といわれ、杜氏とは全く異なるものとなります。

杜氏の歴史

「杜氏」の語源は「刀自(とじ)」という説が最も有力とされています。

刀自には「一家の主婦」という意味があり、かつて宮中では女性を中心としてお酒造りが行われていました。しかし一気に大量の仕込みをするように求められると男手が必要となったため、いつしか杜氏は「男の仕事」として定着するようになりました。

杜氏制度が出来たのは約300年前の江戸時代と言われています。もともとお酒造りは通年で行なわれていましたが、いつか来るかもしれない飢饉に備えて原料となるお米を備蓄するようになったため、幕府は通年醸造を禁止し、冬限定で醸造するように酒蔵に命じました。
この命令が今に続く「寒造り」の発端となったわけですが、冬に一気に大量のお酒を仕込むとなるとどうしても人手が足りなくなります。

そんな問題を解決してくれたのが農作業を生業としていた農民。農作業がシーズンオフとなる冬から春の間に、日本酒蔵まで出稼ぎに出るというワークスタイルが確立しました。
全国的に日本酒蔵への出稼ぎ労働者が増えたことで杜氏集団が生まれ、その土地に根付いた伝統手法をもって醸す地域ごとの流派も誕生しました。

杜氏の仕事

杜氏には基本的に蔵元の求める味を具現化させることが求められており、ただただ杜氏自身が実現したい味を生み出せればいいというわけではありません。

蔵元が仕入れた酒米を使い、蔵元が考えた商品戦略に従い、蔵元が求める量、出来上がりのタイミングなどを考慮してお酒造りを行わなければなりません。

工場長としての業務

蔵元とすり合わせた作業計画を基に、蔵人たちと生産に取り掛かります。

杜氏は原料の扱いからお酒の醸造、貯蔵、熟成など、お酒造りにかかわる全工程を管理していますが、直接お酒に触れることは多くありません。あくまでも指揮官なので、蔵人たちに業務内容を伝え、遂行してもらうというスタンスです。

マネジャーのような役回り

日本酒を安定的に造りだすためには良いチームワークが必要不可欠です。

ほとんどの場合お酒造りはひとりで行われることはなく、数人~十数人での共同作業が基本となります。そのため蔵人たちの適性を見極めて適材適所に配置することが求められます。
また、メンバー内で起こるいざこざなども解消しなければなりません。

時にはトラブルシューティングも?

醸造している期間中はどうしても何らかのトラブルが発生してしまいます。停電や漏電、雨漏り、急に機械が止まってしまうなど、さまざまなケースがあります。

機械が止まってしまうと決められた時間内に生産できなくなってしまうため、機械に対する知識や停電、漏電、雨漏りからの復旧方法をある程度知っておく必要があります。

杜氏以外の役職

蔵には杜氏以外に頭、麹師、相麹、もと廻し、道具廻し、釜屋、上人、中人、下人、飯炊、炭屋といった役職があります。
それぞれどのような役割を持つのかひとつひとつ解剖して見ていきましょう。

杜氏の補佐役。指令を蔵人に伝達し、仕込みをメインで行う。
麹師 麹造りにおける責任者。麹室内で行う全ての作業を担当。
相麹 麹師の補佐役。
もと廻し もろみの元となる酒母造りの責任者。もろみの仕込みまでを行う。
道具廻し お酒造りに使われる道具や用具の洗浄、管理。
釜屋 蒸米の計量や洗い、焚き付けなど、蒸米の調整作業を担う責任者。
一般蔵人 上人、中人、下人、飯炊の総称。
主に他の蔵人たちの手が回らない雑用全般を担当。
炭屋 日本酒のろ過に携わる役職。
最近は炭でろ過しなくても良い酒が造れるようになったことから減少傾向。

必ずしもひとりにひとつの役職が割り当てられるわけではなく、ひとりが複数の役職を兼任することもあります。いずれにしてもお酒造りは工数が多い作業なので、多くの人員を確保する必要があるわけですね。

有名な杜氏集団

日本酒の発展に大いに貢献したプロフェッショナルは全国に存在します。
日本にはいくつもの杜氏集団がありますが、数あるグループの中でも最も有名な「日本三大杜氏」をご紹介します。

南部杜氏

岩手県発祥の杜氏集団です。

近江商人が東北までやってきてお酒造りの技術を伝えたことが南部杜氏の始まりだと言われています。盛岡城が築城され、盛岡藩の中心地として栄えてくると南部地方でお酒造りが発展しました。

柔らかな味わいのお酒を造るのに長けています。

越後杜氏

新潟県発祥の杜氏集団。

県内の中でも地域によって細かく分かれており、三島(さんとう)杜氏、刈羽杜氏、頚城(くびき)杜氏の3つの流派が存在します。また三島杜氏は、さらに越路杜氏と野積杜氏に分かれるため、越路、野積、刈羽、頚城の4流派とする考え方もあります。

越後杜氏に淡麗辛口テイストの日本酒を造らせたら右に出るものはいません。

丹波杜氏

兵庫県発祥の杜氏集団。

南部杜氏や越後杜氏と比べると規模は小さめですが、「灘の酒」を世に送り出したスーパークリエイティブ集団です。

江戸時代、出所の分からないものや質がよろしくないものは粗悪品と判断され、江戸に下ることがありませんでした。しかし、かつて江戸に出回っていた日本酒の8割が灘の酒だったと言われています。

丹波杜氏が醸す濃醇辛口の日本酒は江戸時代から定評があります。

まとめ

今回は杜氏についてまとめました。杜氏はもともと農民だったとは意外でしたね!

お酒造りを統括する以外にも人事的なことや、広く何でもこなせる万屋みたいなことも必要となるわけなので、かなりマルチなスキルが求められます。

日本酒造りに情熱を注ぐ蔵人の存在を思いながら味わうお酒は、格別なものとなるかもしれませんね。